こんな話  2022年2月20日|日曜日

愛知県一宮市 尾州織物工場を訪ねて

テーラーの黒木さんのお招きで、愛知県一宮市で開催された「尾州織物」の工場見学に行きました。

 

「尾州」(BISHU)と言ってピンとくる人は少ないかもしれません。

地元愛知県でも意外に知られていません。

尾張の地場産業が繊維だったので「尾州」と言えばそこで生産される高品質の生地を指します。

 

尾州生地の服には、タブに尾州の「尾」の文字が縫われます。

愛知県尾張地方や岐阜県美濃地方は木曽川水系の自然の恵みに支えられた一大繊維産業の中心地でした。

今、「尾州」(BISHU)のブランドイメージを広めようということで一宮市を中心にいろいろな試みがなされています。

 

「尾州」の生地を学校の制服にも積極的に使って、地元の子どもたちにも知ってもらおうという動きがあります。

「修文学院高校」や「尾北高校」の制服にも「尾州」が使わます。

 

 

 

一宮市には国産の毛織物の最高峰の「葛利毛織」を作る会社があります。

「葛利毛織」は手触りが何とも言えず、柔らかいのですがしっかりもしていて「パリッ」としています。

 

こちらが「葛利毛織」の生地です。

葛利毛織の会社の方にうかがうと、

「3世代にわたって着られますよ~。」

と、さらっとすごいことを言われます。

3世代で着るぐらい良いものを永く大切に使うことこそエコです。

物に記憶が宿り、愛着と歴史が生まれ唯一無二の物になります。

 

葛利毛織の生産のモットー。

高速・同質・大量生産に対して、素材の特長を活かす「低速・多品種・小ロット」

 

 

こちらが今回売られていた生地の中で最高級品。

「ヤク」と「ウール」を混ぜた無染色の生地です。

これで仕立てたら温かいでしょうね。

スーツ上下にベストの3ピースだと3.5mくらいの生地で作られます。

 

「葛利毛織」は今や骨董品と言ってもよい「ションヘル織機」で織られます。

 

低速で織られるので生産数が限られますが、低速ならではの味のある生地になります。

 

実際、織られる所を見学しましたが、「ガシャン、ガシャン」という音が心地よいです。

想像以上に音は大きく、隣の人と話すにも大声で話さないと聞こえないほどです。

しかし、この音が何とも人間味があって嫌ではありません。

 

オートバイで言うと昔のキャブレターのような感じです。

鉄道で言うとやはり蒸気機関車のスチーム音ですね。

 

小刻みのアナログのリズムで、8ビートを刻みます。

微妙なタメもあり、デジタルの打ち込み音にはない、なんとも温かな感じがします。

 

そこから織られる生地はやはり風合いも唯一無比で武骨な感じもします。

 

工場は昔ながらの「ノコギリ型屋根」の工場です。

これは昼間の明かりを効率よく取り入れる構造になっています。

内部はこの通りです。

 

さて、「ションヘル織機」よりもさらに古い、もはや「明治村」においても遜色ない織機が今でも現役で動いていました!

「ガラ紡」を作る織機です。

明治期の織機システムです。

ここから作られるのが「ガラ紡」です。

この画像から、下の筒に置いた「生糸」から円筒が回って糸を引き、上へと伸ばします。

 

このシステムを発明したのがこの方です。

糸車を逆転の発想で織るシステムで、ものすごく画期的な織機です。

これが「ガラ紡」ですが、微妙にムラがあります。

これが計算されていないものでランダムな織り方になっているので、良い味が出ています。

高性能な現代の機械ではなかなかこの感じがでません。

もちろん絶えず人の手を借りないとできないもので、まさにアナログの美です。

 

 

大量生産・大量消費の時代から、少量で良いものを愛着が湧くまで使う時代へ。

 

教養堂の指導の理念にも通じる、このような「尾州」の取組み。

これからも目を離せないです。

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