本の紹介  2017年12月13日|水曜日

『解読 地獄の黙示録』

 

 

 

『解読 地獄の黙示録』 立花隆 著  文春文庫

 

映画の見方を教えてくれる良書

 

 

映画「地獄の黙示録」は1979年公開の監督フランシス・フォード・コッポラによる大作である。

原題は「Apocalypse Now」。

邦題の「地獄の黙示録」はB級ホラー映画のように受け止められるかもしれない。

忠実に訳すならば、「現代の黙示録」とした方が良い。

 

この映画を作家の立花隆が読み解いた映画批評の作品が本作。

映画自体は映画史に残る傑作だが、いまだ正当な評価が定まっていない問題作だとも言える。

立花隆は、この映画「地獄の黙示録」(特に後年再編集された特別編)と、小説「カラマーゾフの兄弟」(ドストエフスキー)、漫画版の「風の谷のナウシカ(特に7巻目)」(宮崎駿)の3作品は、物語として長大で破綻している箇所もあるかもしれないが、それを上回って余りあるほどの偉大な作品だと評している。

 

 

この本で述べられているのは、

「外国語映画ははたして日本人に正確に理解されているのだろうか?」

という、そもそもの日本の映画配給に対する懐疑である。

実際に当時公開された映画の字幕に対して容赦のない批判を与えている。

実はこの着眼点は、日本の英語教育に対する問題提起として捉えることもできる。

 

英米文学、そしてそれ以前のヨーロッパの文学の理解があれば、ある映画のセリフの奥に潜む世界観がより理解できるし、表面的な鑑賞ではない重層的な鑑賞ができるということだ。

 

この映画「地獄の黙示録」は、まず1902年のジョセフ・コンラッドの「闇の奥」という小説をベースに脚本が書かれている。この小説では植民地時代のアフリカを題材としているが、映画では1970年代のベトナム戦争を舞台に置き換えている。

 

題材(モチーフ)は同じである。

「闇の奥」では、主人公マーロウ(貿易商人)が、蒸気船に乗ってアフリカのコンゴへ行くという話。

「地獄の黙示録」では、主人公ウィラード(米軍大尉)が、米軍の哨戒艇に乗ってカンボジアのジャングル奥深くへ行くという話。

どちらも目的は、奥地に君臨する「王」のような男に会う話である。

 

ちなみに、映画「スターウォーズ エピソードⅣ」でも同じ題材となっている。

主人公ルークが、宇宙船ファルコン号に乗って「デス・スター」へ行き、「ダース・ベイダー」を倒す話である。

 

さらに日本の漫画でも同じ題材で「ジョジョの奇妙な冒険 第三部」に使われている。

主人公ジョジョが、仲間とともに宿敵ディオを倒しに行く話である。

 

ちなみに「ジョジョ」は画風についても興味深い。

誰も指摘していないが、そこにはグスタフ・クリムトやエゴン・シーレの影響が見える。

 

「地獄の黙示録」にはさらに、イギリスの詩人T・S・エリオットの「荒地」(1922年)やジェームズ・フレイザーの「金枝篇」(1890年)といったイギリスの近代文学の影響もあるようだ。

「荒地」は日本人にはなじみが薄い。ヨーロッパの古典文学の知識をふんだんに入れているので、なかなか理解しづらい。

 

余談だが、イギリスのロックバンド、ザ・フーが発表した「WHO’S NEXT」(1970年)というアルバムにもこの「荒地」からの引用がある。

だから英米のロックにしても歌詞の背景にこのような古典文学の素養があれば、もっと深く味わえる。ここは日本の音楽ジャーナリズムにも限界がある気がする。

 

「金枝篇」は、ヨーロッパから古く伝わる「聖杯伝説」が取り上げられている。

「聖杯伝説」だと、映画「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」や映画「ダ・ヴィンチ・コード」にも出てくる題材である。

 

映画「地獄の黙示録」では、冒頭部分やエンディングで流れる曲が、アメリカのロックバンド、ザ・ドアーズの「ジ・エンド」(1967年)という曲だが、この曲自体がすでに映画と同じ「王殺し」というテーマを扱っている。

 

このように、「解読 地獄の黙示録」は、映画や小説、音楽などに影響を与えている欧米文化の厚い層を教えてくれる。

何より、解釈の仕方、理解の深さを示してくれる。

 

本の読み方はその本単体での読みでももちろん良いが、このように影響し、影響を与えている一連の本も読んでいくと面白い。

これを「線読み」と名付け、小説から戯曲、音楽、映画と芸術全般を網羅して味わうのを「面読み」と名付けたい。

単体よりも複数読んでいくうちにパラレルワールド的に壮大な物語群が押し寄せてくる感覚が味わえる。

 

このような鑑賞の仕方は、他分野でも応用が効く。

教養堂では、もう少し扱いやすいテーマで、このような鑑賞を体感するプログラムを定期的に予定している。

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