こんな話  2018年9月10日|月曜日

NHKスペシャル「未解決事件File.07警察庁長官狙撃事件」

9月2日(日)と8日(土)に放映されたNHKスペシャル 「未解決事件・警察庁長官狙撃事件」を見た。

このシリーズはこれまでに未解決に終わった事件を丹念な取材にもとづくドキュメンタリーと臨場感たっぷりのドラマ仕立ての2本柱として放映している。

 

 

 

イッセー尾形

今回は「オウム真理教」の犯行とされた1995年3月30日小雨の降る寒い日の早朝に起こった警察庁長官狙撃事件を追ったもの。

ドラマ編では、真犯人役にイッセー尾形さんが主演。

イッセー尾形の「一人芝居」シリーズは、学生だった時よくレンタルビデオで借りてきて見ていた。

久しぶりのテレビでの出演だったがもう大満足。

イッセー尾形の面目躍如である。

日本版の飄々としたハンニバル・レクター博士のような存在感だった。

相手役の國村隼さんも、武骨な刑事役が説得力があった。

 

 

NHKスペシャル 未解決事件 警察庁長官狙撃事件

 

当時、私は学生だったが、報道を見て、当然「オウム真理教」の犯行と思ってこれっぽちも疑わなかった。サリン事件など大事件が続いていたので、感覚も麻痺していたかもしれない。日本中そう思っていたと思う。しかし、豈図らんや、実は真犯人は全く別にいたという。

真犯人と目されている人は別件で現在も獄中にいるのだが、膨大な物証、証拠があるにも関わらず、この事件での逮捕はされていない。

 

自供によると、使用した銃が「コルト・パイソン」、使用した銃弾がものすごく特殊な細工をほどこしたものだという。

しかも犯行後すぐさまママチャリに乗って現場を去り、最寄りの駅で山手線に乗って通勤客に紛れて逃走を図るあたり、事件の重大さから見るアンバランスさにめまいがする。

 

組織内論理の果てに

どうして逮捕されなかったかというと、それは警察内部での担当部署の捜査方針が違っていたためということらしい。

「オウム真理教」の犯行にしたい公安部と、証拠を集めて理詰めで真犯人を追いたい刑事部との対立から、長年立件されずに時効を迎えてしまった。

そこには組織の内部による政治力が影を落としているようだ。

また、驚いたのだが、組織のトップたる長官が狙撃されれば、組織の威信をかけて何が何でも解決するかと思いきや、組織の内部の力構造によって組織の内部倫理の方を優先してしまうということである。

もう少し言うと組織の有力者の意向に沿って空気で物事が進んでしまったことで未解決になってしまったのだ。

 

これはどこの組織にも当てはまるゆがんだ構造と言えるかもしれない。

組織の在り方が悲劇を生む事例としては、戦中の陸軍の「ノモンハン事件」や「インパール作戦」が思い浮かぶ。

これらも大組織ゆえの論理が、真実を覆いかぶさってしまった事例だと思う。

そして責任は誰も取りたがらないし、正論や真実を訴えた者ほど冷遇されていく。

 

真犯人のバックボーン

さて、「警察庁長官狙撃事件」の真犯人とされる人物は、戦前、満州で幼少期をすごした。

張作霖爆殺事件や満州事変の発端となった柳条湖事件を幼いながら身近に感じて育ったようだ。

 

戦後帰国、旧制水戸高等学校に進学。旧制水戸高校と言えば、関東では一高につぐ名門。

そして水戸と言えば、幕末に藤田東湖をはじめとする尊王攘夷派の発祥の地である。

 

(「尊攘」の掛け軸 水戸弘道館にて)

 

さらに1860年には時の江戸幕府の大老、井伊直弼が桜田門外の変で暗殺されたのも、水戸藩出身の脱藩浪士の手によるものだった。

しかも、時を同じくして3月の寒い時期である。

桜田門といえば警視庁を連想してしまうが。

 

さらに真犯人とされた人は、旧制高校在学中に水戸の私塾「愛郷塾」に通っていたという。

この塾の主宰者が橘孝三郎で、昭和初期のテロや五・一五事件にすごく関連している。

 

日本のテロリズムの系譜

ということで、真犯人をめぐるキーワードを拾い上げると、妙な一本の筋が現われてくる。

幕末からバブル経済崩壊までの135年間のテロリズムの影の流れを感じた。

 

「テロ」と聞くと、どこか中東のイスラム原理主義者のジハードを想起するし、ヨーロッパの国際都市における爆弾テロ事件など、日本から遠くはなれた異国のことのように思ってしまう。

しかし、日本の幕末期からこのかた、ずっと日本ではテロが起きていたし、1970年代には日本の過激派の一部が海外にわたり世界でテロを行ってもいる。

「サリン事件」に至っては、毒ガスを使用したテロとして史上前代未聞のことであった。

世界から見れば、日本もまたテロ頻発国であることを自覚する必要がある。

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