こんな話  2019年1月7日|月曜日

幻の列車 マニ30形

今は昔、もうかれこれ40年以上前、JRがまだ日本国有鉄道、国鉄(コクテツ)と言っていた昭和の頃。

 

冬の寒い日に、ある貨物列車が、とある地方の駅に停車していた。

なぜか、その列車は、時刻表のどこにも載っていなかった。

 

最後尾に連結された深いブルーの車両の異様さに目を引く。

窓という窓がない。

ないわけではないが、あったとしても狭い小さなすりガラスに、何と鉄格子がはめられている。

よく見るとこの小さな窓は防弾ガラスになっている。

荷物運搬用の両扉は分厚い鋼鉄製で、大きなカギがかかっている。

車内の様子をうかがうことも出来なければ、何を積んでいるのかも分からない。

 

ここに、鉄ちゃんという名前の青年がいる。

「鉄ちゃん」というぐらいだから……、鉄道マニアである。

 

時刻表にないのに運行されているその列車に気づいた鉄ちゃんは、不思議そうに近寄ってみた。

 

すると、大きな鋼板の列車の扉が開いて、乗務していると思われる車掌が、なにやら薄汚れた白い幕を扉の前にかぶせている。

まるで、病院の診察室にある目隠しのカーテンのようだ。

 

ゴトンゴトン。

白い幕の向こうで、何かをたくさん運び出している。

 

鉄ちゃんは、興味本位で、カメラを片手に近寄った。

すると、その存在に気付いた係官2名が、眼光鋭く、鉄ちゃんに向かって叫んだ。

 

「そこで何をしているか。」

 

鉄ちゃんは答えた。

「写真を撮ろうと思って……。」

 

「それは認められていない。ここには近づかないでもらいたい。」

 

その時、鉄ちゃんは気づいた。

作業しているのは、国鉄の車掌ではない。

また係官たちは、拳銃と警棒を携帯している。

 

 

邪魔者あつかいされる様に追い払われた鉄ちゃんだったが、そこは鉄道マニア。

列車に書かれていた形式番号は見逃さなかった。

 

「マニ30形」

 

鉄ちゃんにして、その形式は初めて見た。

そこで、家に帰って、「マニ30形」という形式の車両をいろいろ本で探してみた。

が、どこにも載っていなかった。

あの窓のない不思議な車両は何なのだ?

何か不穏な空気を感じる。

 

かろうじて遠くから撮影できた「マニ30形」の一枚の写真を、鉄道の専門雑誌に送ってみた。

珍しい車両なので、専門誌も掲載してくれると思ったからだ。

しかし、いっこうに掲載されることはなかった。

 

鉄ちゃんは知らなかった。

ある政府の機関から編集部に掲載不許可の圧力がかかっていたことを。

 

 

幻の列車。

何を運んでいるのか。

人に見られてはまずいもの。

政府機関が必死に隠そうとしているもの。

庶民の鉄ちゃんには皆目見当がつかなかった。

 

 

「マニ30形」とは、

「マ」は45トン前後の客車に使用される形式であり、「ニ」は荷物車を意味している。

そして「マニ30形」とは、国鉄所有の車両ではない。

それは「日本銀行」所有の現金輸送専用車だったのだ。

かつて6両が存在した。

戦後のインフレから大量の紙幣の輸送が必要になり、日本銀行本店から各支店に密かに鉄道輸送していたのだ。

 

時刻表に載せると襲撃目標になる。

輸送には、万全を期し、日本銀行職員とともに鉄道警察官が乗務する。

銃器の襲撃にも耐えうる防弾ガラスと、鋼鉄の車体が必要であり、車内には監視カメラが設置されている。

 

それは、時刻表にも載らず、誰にも知らせず、黙々と、何億という日本銀行発行の紙幣を全国に送り届ける、秘密のベールに隠された日本銀行の現金輸送列車であった。

 

今ではもうその列車は廃止されている。

一部が小樽に保存されている。

クレジットカード、電子マネー隆盛を誇る21世紀の現代からすれば、昭和の懐かしいお話。

 

ちなみに「お金」のことを英語で発音良く言うと、

 

「マニ」(Money)と言う……

 

ねずみ小僧も三億円犯人もびっくりの、教養堂新作落語『マニ30』の一席。

 

 

 

北海道小樽市総合博物館 HPから転載  マニ30形

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